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歯周病の治癒像について - vol.77 -

健康な歯周ポケットは通常1~3mm程度ですが、歯周病が進行すると歯槽骨が破壊され歯周ポケットが深くなります。

歯周病が発症するのにはそれなりの理由があるため、治療はその原因を追究し見直すことが最優先になり、急を要していない早い段階でのルートプレーニングや外科手術はなるべく避けたいと考えています。 

それは原因を見直していない環境ですぐに処置を行っても、一時的に症状が治まるだけでまた再発する可能性がおおいにあるからです。


歯周病が発症した原因を見直し初期治療によって口腔内環境が改善してくれば、その後一歩前進した治療をする価値は高いと思いますが、環境の改善が見られなければその後治療を行っても本当の意味での治療効果があまり期待できないと言っても良いでしょう。
 
歯周病の治療は、最初に治療計画を立てても患者さんの生活習慣や治癒経過で治療法を変更することが多くあります。
なかには初期治療の食事指導・ブラッシング指導・歯石除去のみで驚くほど効果が上がることもあり、そうなると最初は必要性を感じて計画していた治療が必要なくなることもあります。

そのため当医院では最初からいきなり大がかりな処置は避け、口腔内環境に合わせた処置を経過とともに取り入れるようにしています。


患者さんの中には経過を見ながら…と言われると治療が遅れ不安になる方もいらっしゃり、早く外科処置をした方がいいと焦る方もおられますが、口腔内環境が整っていない状態で最初から外科処置をしても意図する回復が見込めないことが多いのです。
口腔内環境が整っている状態と整っていない状態での治療は、処置後の痛みの程度もそうですが、治癒や予後に大きく影響します。




歯周病の具体的な治療法として、病的な歯周ポケットを減らすためスケーリング(歯石除去)やルートプレーニング(根面の滑沢化)、歯周外科等を行い、根面に付着した歯石や起炎因子、炎症性組織を除去することで環境を改善します。環境が整えば失った歯槽骨も多少の回復が見込める場合もあります。

歯肉が健康になり歯肉が締まると根面が露出し知覚過敏を生ずることもあり、見た目も歯肉が退縮することにより歯と歯肉との間に隙間が生じます。

そのため患者さんが期待している治癒像と異なる場合が多くあります。
歯周病の治療を受ければ歯肉も歯槽骨も完全に元に戻る 再生すると勘違いされる場合があり、初期の場合なら可能性がないことはありませんが、ある程度進行した場合は見た目と歯槽骨の犠牲は避けられないことが多くあります。
歯周外科手術 再生療法 矯正などによりある程度の歯肉と歯槽骨の回復は期待できますが、完全に元どおりになることは正直無理があると思って下さい。
よって元に戻す治療と過大な期待はせず、進行を食い止め、維持安定を目的にする治療と捉えて頂く方がよいと思います。


私の考える歯周病の治癒像は、歯周病の原因となったと思われる生活習慣の改善、行き届いた歯磨き習慣、炎症のない締まった健康な歯肉、そして歯槽骨も安定していることです。
そして審美的要素はこれらのことをクリアしていることが前提で、伴っていなければ意味がありません。
よって、医療者と患者さんで大きな隔たりがあると折角の治療が台無しになるため、治療ゴールの共有はとても大切になるのです。



歯周病の主原因の多くは生活の悪習慣です。
医療者にすべてを委ねるような甘い考え、逃げ道を探したり、言い訳や愚痴を言っているようではよい結果は生まれませんし、変われません。
患者さん自身が真剣に歯周病のことを理解し向き合わなければ改善の糸口はつかめません。そして勝ち取る思いで望まなければ本当の意味での改善はできないでしょう。
少しきつい言葉かもしれませんが、叱咤激励の言葉として受け止めて頂けたらと思います。