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ファイバーコア(ファイバーポスト)は歯根破折しないか? - vol.79 -

症例 1 

全顎治療を希望された患者さんです。



インターネットで様々な情報を見て勉強され、自分で治療計画し、この残根歯は感染根管治療後 歯根破折しないファイバーコアで治療してほしいと強く希望されました。

残根のまま数年放置し、骨縁下に及ぶむし歯 上下顎左右側の大臼歯欠損による不安定な咬合関係でしたので、感染根管治療後、咬合を安定させてから改めて計画案を立てる提示をしました。
その場では「提案された方法でお願いします。」と承諾してもらえたのですが…  その後来院が途絶えます。







2ヶ月後
「一刻も早く処置をしたかったという理由で、根管治療専門医にて1回の治療で根管充填・ファイバーコアまで済ませ、その後の治療は他の医院で処置して下さいと言われたのでお願いします。」と治療の続きを希望して再来院されました。

治療をして下さった先生からは「ファイバーコアなら歯根破折はしませんから大丈夫ですと念を押されました。」と患者さんは嬉しそうでした。

咬合を安定させるために臼歯の治療をしながら患歯の処置する計画を立てたのですが… 
どんどん治療を進めたいため他医院に相談に行かれました。








さらに3ヶ月後
歯がグラグラしてうまく噛めないと再来院されました。
先日専門医で治療した歯は歯根破折し、広範囲に骨吸収を起こしています。
小臼歯も根管充填がされてあります。

「専門医にファイバーコアは歯根破折を起こさないと言われたのでショックです。」とうなだれていましたが、ファイバーコアは歯根破折をある程度予防することは可能でしょうが、破折しないと言い切れません。ファイバーコアの売り込みの謳い文句にもっともらしいことが良く記載されていますが、ファイバーコアだから安心ではなく、患歯の状態・咬合状態などにも大きく影響しますので、材質の使い分け・噛み合わせを考慮した設計が必要と思われます。

フェルールのない歯にファイバーコアをするのには注意が必要かと思います。


症例1では毎回相談のみ受けただけで当医院では治療は行なっていませんが、歯根破折した症例に遭遇しました。この歯にかなりのお金を掛けた歯なので抜きたくないと治療は希望されなかったためその後の破折歯の経過はわかりませんが、どのような破折をしているのか興味はあります。









症例 2 

「1年前に全体の治療を最新の方法で終えたのですが、最近よく脱離しそのたびに着けてもらっています。先日付け直したばかりでまた取れてしまい、いささか信用できなくなったので別の歯科医の意見を聞きたくて…」と来院されました。






ファイバーコアとオールセラミックにて治療が完了していますが、歯根は近遠心的に破折していました。
脱離を繰り返していた補綴物には余剰セメントが多量に付着し、ファイバーポストには歯根破折線にそって埋入されたセメントが確認できます。

こちらの患者さんは治療前にメタルコアが装着されていたようですが、メタルコアは歯根破折の原因になるからと言われ、20数年間何ともなかったすべての歯の支台を歯根破折防止のためファイバーコアに替え、前歯は1年半前にオールセラミックで治療を終えたそうです。
担当医にファイバーコアとオールセラミックで治療すれば、一生大丈夫ですとかなり念を押されたようですが…   
短時間で悲しい結果になっています。

不適切な手法・総合的な考慮がなされていなければ、上記症例のようにファイバーコアでも歯根破折を起こす結果になってしまいます。








同じ患者さんの反対側です。
こちらは合着後1年でオールセラミッククラウンがファイバーコアごと脱離し、再合着したようですが何やら歯質とコアの適合が怪しいです。



「ファイバーコアだから歯根破折せず、メタルコアだから歯根破折を起こす」という風潮がありますが、材質だけで歯根破折が決まるような単純なものではありません。
(根管治療の良否・残存歯質の状態・根管形成の太さ・支台の精密具合・接着力・歯軸に対する咬合力などなど複雑な要因が破折の原因となり得ます。)


「ファイバーコア = 歯根破折しない」 ではなく、

ファイバーコアは曲げ弾性率を象牙質に近似させているため、メタルコアと比較して歯根に応力集中を起こしにくいことが大きな特徴で、歯根破折を予防する目的で開発されたものです。よってファイバーコアだから歯根破折しないとか防止できるわけではありません。 


あくまで予防に値し、間違った手法・総合的な考慮がなされていなければ、上記症例のようにファイバーコアでも歯根破折を起こす結果になってしまいます。


当医院でもファイバーコアを使用しますので、ファイバーコア治療を否定しているわけではありません。
特にフェルールのない場合や脆弱している場合にファイバーコアをするのには注意が必要だと思います。


最近ファイバーコアを行なったにも関わらず歯根破折を起こし、他歯科医院より転院されてきた患者さんに多く接したため、ファイバーコアだから絶対に歯根破折しないと解釈なさらないほうがいいと思い、一部の症例を掲載しました。


材質だけの提示ではなく、大切なのは総合的に考慮した治療計画案・治療法があっての材質選びではないでしょうか?

歯根破折の予防は、材質以前に基本的なことをしっかり行なうことが大切なのです。