トップページ > 私考 > vol.74 根管治療を繰り返しても治らない理由 …


根管治療を繰り返しても治らない理由 - vol.74 -

現在 根管治療を行なっているのですが痛みが続いたり、噛めなかったり、治る気配がなかったりで、心配になったり、悩んだり、精神的に疲れてしまって… などなど セカンドオピニオンでよく相談を受けます。
根管治療をしても症状が治まらないのには何らかの原因があるのです。
一部ですが紹介します。





症例 1


「1年前から根管治療を続けていますが、噛むと痛みがあります。そのことを主治医に訴えるのですが、説明もなくいつも短時間でいつもと同じ治療をするだけで何も変わりません。またフロスがうまく通らないのですが… このままで大丈夫でしょうか?」と相談で来院されました。

隔壁を作って根管治療をされていたようですが、レジンを凹凸に隣接歯に盛りあげた隔壁のため歯磨きができない不衛生な環境です。これでは根管治療を行う以前の問題です。周囲の環境が悪ければ、患歯はもちろん周囲の歯にも悪影響が出るばかりでなく、適切な根管治療も行えません。
近心根根尖部にGPの取り残しらしき像が認められます。






根管内診査すると、近心部にむし歯(軟化象牙質)が残っています。
またレントゲンで髄床底部にまで隔壁材料が存在しているように見えるため髄床底部の隔壁を慎重に除去すると穿孔ギリギリの状態です。(髄床底直下に歯周組織が透過して見えます。)






隔壁とむし歯(軟化象牙質)を完全に除去すると近心頬にはイスムスが認められます。
また近心頬側根根尖部から排膿 近心舌側根から出血が確認できます。






遠心舌側根根管内には不良肉芽が確認できます。この周囲で穿孔(パーフォレーション)を起こしている可能性があります。


隔壁の不備、むし歯の存在、穿孔しそうな髄床底、イスムス、根管内に存在する不良肉芽など多くの問題を抱えています。
原因を把握していない状態で根管治療を繰り返していても治ることはありません。







症例 2


「1年間根管治療を繰り返し行い、歯の掃除も月に1度は来るように言われて、真面目に通ったのですが症状が軽減しません。歯肉の内側に腫れもあり心配です。
前医には根管治療はとても時間が掛かる治療で、まだ治療が必要ですと言われ、説明がいつも違うため信用できなくなりました。どうしても抜きたくないのと早く痛みから解放されたいので…」と相談で来院されました。






隔壁を作って根管治療をされていたようですが、隔壁材料が歯肉に覆いかぶさるように設定されていたり(探針が入り込む)、隣接歯の歯頸部歯肉上に設定されているため、症例 1 同様 隔壁が杜撰で患歯周囲の環境が悪い状態です。
近心根根尖部内壁にGPの取り残しらしき像が認め、根尖病巣も認められます。
また分岐部周囲も透過像を認めます。





根管内診査すると、すべての根管内に根管治療薬は貼薬されていません。また根尖部に根管充填剤(GP)の取り残しが確認できます。


 





近心根の頬側 ~ 舌側にかけて破折線が認められます。







遠心根舌側にも破折線が認められます。

近心根尖部に根充剤の取り残しを認め、2根に破折線が認められますので歯根破折を起こしていると思われます。
このような状態で根管治療を繰り返し行なっても症状は治まりません。

隔壁をする前に根管内の状態を把握する必要がある症例です。
マイクロスコープを使用して根管治療して頂いていたようですが…
掛ける言葉がみつかりません。







症例 3


「別の歯の治療をしている時にこの歯(矢印)は何にも痛みもない歯でしたが、神経を取る治療したほうがいいと主治医に言われ、根管治療を受けました。治療後麻酔が切れてから今まで味わったことがない痛みに襲われ、その後数えきれない位通院し根管治療を繰り返していますが、1年経っても痛みが一向に治まりません。
先生には自費治療になるけど3Mixを使えば必ず痛みが治まりますので…と言われたのですが、本当に3Mixで治るのでしょうか? それとこのままでは心配なので…」と来院されました。

根尖部に薄っすら透過像が認められます。






根管内診査をすると、口蓋根根管内には膿が充満しています。
根管治療薬が何も入っておらず、口蓋根に膿が多量に充満しているようでは痛みが治まらないでしょう。
抜髄がどうして感染根管になってしまったのでしょう。
おそらく歯髄組織が除去されておらず、的外れな根管治療が原因と思われます。そして3Mixを使ったからと言って治癒するものではありません。






症例 4


「半年前から根の治療を終えていた歯が痛みだし再治療してもらっていましたが、噛むと痛みがあり何回治療してもらっても痛みが治まりません。最終的な薬を入れてもらったら痛みが更に増してきました。これ以上治療するのが怖くなったので…」と相談で来院されました。

頬側近心根の根尖からGPが骨に飛び出しています。
口蓋根には再治療前のものと思われるGPが根尖より少し飛び出しています。再治療の際に押し出してしまったか取り残してそのまま新たに根管にGPを充填した模様です。





髄腔内に詰まっていた綿球を除去し根管内診査をすると、近心頬側根から溢れるくらいの血膿が出てきました。






根管内よりはみ出たGPを除去するのは無理なため、外科的(意図的再植法)に除去しました。
抜歯すると、GP片が確認できます。

根尖からGPを押し出してはいけません。またこのようにGPが根尖から飛び出している状態で根管治療をいくら繰り返していても、根本の原因を除去しなければ感染源が存在していますので治癒してきません。







症例 5


「根管治療のやり直しでもう何ヶ月も定期的(月に2 ~ 3回)に通っているのですが、治療に通院するたびに腫れます。そのことを主治医に訴えるのですが曖昧にあしらわれきちんと対応してくれません。同じ話をすると怒り出し何もしてくれなくなるので不信感が募り… 本当にこれで治るのでしょうか?」と心配で来院されました。
根尖に透過像が認められます。
根管内診査すると根管内入口から根尖の貼薬部分までに血の塊があり、根尖部の一部に水酸化カルシウム剤の貼薬が認められ、根尖孔外にGP片が認められました。
おそらく再根管治療の際にGPを根尖孔外に押し出し、そのまま根管治療を繰り返していたのではないかと推測できます。
このような状況で繰り返し根管治療を行なっても回復は厳しいと思われます。







根管内から根尖よりはみ出たGPの除去を試みましたが、完全には除去できないため唇側より外科的に除去しました。




ここでは長い期間根管治療を繰り返しているのに治らないため、相談に見えた様々な原因の5例を提示しました。根管治療を受けても痛みが治まらないのは、治療に何かしらの不備がある場合がほとんどで、問題はかなり不適切で的外れな根管治療を長期に渡って繰り返し受け続けている場合です。





転院されてきた患者さんから良く耳にする訴えは、


  • いつも細い針のようなものでグリグリいじられるのですが痛みが引きません 治る気配がありません。

  • 1年 ~ 2年前から根管治療を続けているのですが治りません。

  • 根管治療を行なってから痛みはじめ、毎月1 ~ 2回歯科医院に行くたびに同じように根管治療を受けますが、痛みが引きません ますます悪くなる感じです。

  • 根管治療薬を替えれば良くなると言われ、言われたとおり替えましたが症状は変わりません。

  • 高価な薬(3Mix)なら回復に向かいますよ と言われましたが状況は変わりません。
  • 治療している歯で噛むと痛いので先生に質問すると、「その歯で噛むあなたが悪い 安静にしていないと治りません」 と言われました。

  • 「根管治療は難しいので時間も回数も掛かるのが普通です。文句言わずに定期的に治療に来てください。」と言われているのですが、本当ですか?


などなど、悩みも様々です。






長引くと思われる主な原因は、

  • むし歯の取り残し

  • 神経の取り残し

  • 根管の見逃し 

  • 根管内の感染物質・腐敗物質がきれいに除去されていない場合や根尖から感染物質が押し出された場合

  • 根管治療中の歯がしっかり仮封されていない場合や仮歯が入っていない場合

  • 根管治療に使用される器具により根尖にダメージが加わった場合

  • 穿孔(パーフォレーション)を起こしている場合

  • 歯根破折、クラックが存在する場合

  • 誤った消毒薬の使用による組織へのダメージ

  • 化学物質過敏症

  • 技術的な問題

などなど



根管治療は、根管内の感染物質・腐敗物質をきれいに取り除く治療です。
そしてその根管を緊密に封鎖することを根管充填と言い、通常2 ~3回で完了します。
 
(感染範囲が広い場合はもう少し治療回数が掛かる場合があります。)



根管治療を長く繰り返し行っていても症状が軽減しない場合は、何かしらの問題を抱えています。
原因も特定できず、ただ根管治療を繰り返すだけでは、治療を繰り返すたびにかえって歯質にダメージを与えたり、刺激を与えてしまったり、感染が拡大する恐れがあったりとマイナスな影響を与えかねません。
原因がわからずこじれにこじれた状態が続いた結果、最悪抜歯に至ることもあるでしょう。


根管治療を繰り返し行っても状態が優れない場合、疑問を感じる場合は、手遅れになる前に思い切って経験豊富な先生に意見を求める方が良いかと思います。


長期に渡り問題が続いていた場合の歯をバトンタッチして再治療を行う場合は、更に時間を要したり、外科処置の必要性があったり、場合によっては回復する見込みが薄い場合もありますが、他の視点から目を向けると解決の糸口が見つかるかもしれません。