3歯延長ブリッジ(ロングスパン延長ブリッジ)の経過 2症例 - vol.83 -
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66歳 女性
15年前に全顎治療を希望し来院され、再根管治療 補綴治療を行いました。
初診時下顎左側は大臼歯が欠損し、上顎左側は犬歯より後方は欠損していました。51歳だった患者さんは現時点でどうしてもインプラントと義歯と歯牙移植は避けたいと切実な思いで来院されましたので、かなりリスクは高いと思いますが、プロビジョナルレストレーション(3歯延長ポンティック)で長期経過を観察し、状態を踏まえたうえで最終計画を立案することにしました。
初期治療を終えてから1年ほどプロビジョナルレストレーションで様子を見ていましたが、患者さんから本番も同じようにしたいとせがまれました。
最終計画は上顎は5歯連結 3歯延長ブリッジ(8歯ブリッジ) 下顎は2歯連結 1歯延長ブリッジ(3歯ブリッジ)でした。
正直かなり無理な設計です。しかし患者さんから、「補綴物が破損しても、残っている歯がダメになっても今の時点で最後のチャンスだと思って無謀な設計でも構わないので…」と思いと押しに根負けし、お手伝いすることにしました。
最終補綴物を装着して4年後
矢印が3歯延長ポンティックです。
治療中 プロビジョナル装着中 最終補綴物仮着中はかなり歯磨きも頑張っていましたが、最終補綴物装着後は徐々に歯磨き習慣が甘くなり、歯間部の発赤腫脹が気になっていました。その都度ブラッシング指導をするのですが… 調子よく噛めるので、ついつい歯磨きは後回しになっているようです。(悲)
上顎に最終補綴物を装着した時のレントゲン写真
矢印(黄)が延長ポンティック
矢印(緑)が本来の根管で支台のポストが入る部分
矢印(赤)前医が誤って根管形成した部分
根管形成がズレていたため本来の根管に根管形成を行ない、両方に一体型のポストを装着しました。
最終補綴物を装着して13年半後
「犬歯周囲の唇側 歯間部の歯肉が腫れ、指で押さえると違和感がある。」と来院されました。
全体的に歯肉に発赤・腫脹が認められるためレントゲン撮影してみると、犬歯の支台歯周囲にむし歯らしき透過像(矢印 赤)が認められました。
さすがにこのままでは他に悪影響を及ぼすため、早めに一部の補綴物の除去を勧めましたが、おさぼりがちだった歯磨きをもう一度頑張ってもう少し様子を見たいと言われました。
しかし、今まで以上に歯磨きをしても歯肉の腫れは変わらず、2ヶ月後には更に腫れ、痛みも伴い鎮痛剤を服用したようです。
それから2週間後 患者さんは「もう少し怠けないで歯磨きすればよかったと少し後悔はありますが、無理を承知でこのような設計を叶えてくれたことに感謝し、今まで10年以上何の不自由もなく使えたのが奇跡だと思います。少し寂しいですが、もう入れ歯の覚悟はできていますので他の歯に悪影響が出る前に外してください。」と覚悟を持って来院されました。
犬歯(最後支台歯)から延長部を切断除去しました。
やっぱり駄目だったと言うより、3歯延長という過酷な条件を正直13年半もよくここまでもったなぁという感想です。
ブリッジにすると歯の寿命が短いなどと言われ、特に延長ブリッジは避けたほうがよいとされていますが… どうしてもという患者さんの願いに便乗した設計で10年以上経過したことに驚きを隠せません。
後にも先にも3歯延長ブリッジにて対応した症例は2例しかありませんが、今回のケースとほぼ同時期に同じようにどうしても歯を伸ばしてほしいと言われ、3歯延長ポンティックで対応したことがあります。以下に2例目を紹介します。
68歳 男性
昔から知人の歯科医に全顎的を治療してもらい、最近では行くたびに歯を抜かれどんどん入れ歯が大きくなりました。上に入れ歯を入れてからはうまくしゃべれないので周りの人には何回も聞き直されます。このままでは近い将来1本も歯がなくなるのではないかと心配で、それに伴いもっと不自由になることが辛いので… と全顎治療を希望され、上顎には入れ歯を入れたくないと強く希望されました。
このケースは歯根の状態が極めて悪く(根尖病巣・穿孔)、正直何度もやめるよう説明を繰り返し、他の治療法を提案しましたが自分の責任でやるからどうしても自分の思っているやり方で作ってほしいと押し切られ、お付き合いしました。
初診時
再根管治療からスタートしました。
最終補綴物装着時
3歯延長ポンティック部(矢印 黄)
最終支台歯の犬歯には穿孔(矢印 赤)が認められ、SBにて塞ぎました。(パーフォレーションリペア)
隣接の側切歯は本来の根管から反れて根管形成されていたため、本来の根管にポスト形成を行い、支台を装着しました。(矢印 緑)
最終補綴物を装着してから非常に調子よく使えていたようですが、10年ちょっと経過したときに穿孔していた犬歯が歯根破折を起こし、いよいよ抜歯となりました。
(この当時は現在とは違い、歯根破折歯はすべて抜歯対象でしたので抜歯となりました。)
正直最終的な結末がある程度計算できる設計ですから、医療サイドとしては行いたくない治療法でしたが…
実はこの3歯延長ブリッジを行った患者さんは、どこに相談しても入れ歯かインプラントを強く勧められ半ば諦めかけていたのですが、最後に相談した知人の歯科技工士さんから延長ブリッジの可能性を聞き、それを頼りに当医院に来院されたのかきっかけでした。
患者さんの知人は多くの知識 技術を習得された歯科技工士さんですが、以前にロングスパン延長ブリッジの症例経過を講演会で見たことがあったそうです。その講演をした術者へは受診は遠方のため断念し、術者と私が深く関わりがあったため、同様の診療スタイルを手掛けていて通院できる範囲の私のところに相談に来てこのような設計を強く望まれました。
私はロングスパン延長ブリッジ治療を行ったことがなかったため戸惑いましたが、患者さんも私も覚悟を決め、無理は承知の上で取り組んだ2例でした。2例とも10年以上義歯・インプラントから遠ざかる環境で過ごせたことに患者さんが満足されたことは医療者として救いで、最終的に不具合を生じても今回のような治療をしてもらえて本当に良かったと言って頂け、喜んで頂ける医療を提供できたことは嬉しく思います。
結果的に両患者さんからはとても感謝されましたが… 延長ブリッジの結末はおおよそ見当がつくため正直積極的には行いたくない治療法でむしろ避けたい治療法です。ましてや今回のようなロングスパンの延長ブリッジはリスクが高すぎる治療法ですから通常はまず取り入れない治療法です。
よく延長ブリッジは批判されますが、今回のように普通の延長ブリッジよりも更に無謀とも言える3歯延長ブリッジ治療の2例がたまたま良い状態で10年以上調子よく使えたことに正直驚きを隠せません。残念ながらその後トラブルを起こしてしまいましたが、この体験を通してある意味いろんな可能性も秘めていると感じた2例でもありましたし、患者さんの希望に寄り添って行うことができた治療法に今は満足しています。
よく患者さん満足の医療と言いながら、実は医療者満足になっている医療も多く見かけます。
望みがあれば、「無謀」「これはどうやっても無理だろう」と決めつけるのではなく、患者さんの要望や希望に寄り添い、厳しいとわかっていても納得した上でそれに向かって共にチャレンジすることもとても意味のある医療だと改めて教えられました。
両患者さんのこれからも見守りたいと思います。
15年前に全顎治療を希望し来院され、再根管治療 補綴治療を行いました。
初診時下顎左側は大臼歯が欠損し、上顎左側は犬歯より後方は欠損していました。51歳だった患者さんは現時点でどうしてもインプラントと義歯と歯牙移植は避けたいと切実な思いで来院されましたので、かなりリスクは高いと思いますが、プロビジョナルレストレーション(3歯延長ポンティック)で長期経過を観察し、状態を踏まえたうえで最終計画を立案することにしました。
初期治療を終えてから1年ほどプロビジョナルレストレーションで様子を見ていましたが、患者さんから本番も同じようにしたいとせがまれました。
最終計画は上顎は5歯連結 3歯延長ブリッジ(8歯ブリッジ) 下顎は2歯連結 1歯延長ブリッジ(3歯ブリッジ)でした。
正直かなり無理な設計です。しかし患者さんから、「補綴物が破損しても、残っている歯がダメになっても今の時点で最後のチャンスだと思って無謀な設計でも構わないので…」と思いと押しに根負けし、お手伝いすることにしました。
最終補綴物を装着して4年後
矢印が3歯延長ポンティックです。
治療中 プロビジョナル装着中 最終補綴物仮着中はかなり歯磨きも頑張っていましたが、最終補綴物装着後は徐々に歯磨き習慣が甘くなり、歯間部の発赤腫脹が気になっていました。その都度ブラッシング指導をするのですが… 調子よく噛めるので、ついつい歯磨きは後回しになっているようです。(悲)
上顎に最終補綴物を装着した時のレントゲン写真
矢印(黄)が延長ポンティック
矢印(緑)が本来の根管で支台のポストが入る部分
矢印(赤)前医が誤って根管形成した部分
根管形成がズレていたため本来の根管に根管形成を行ない、両方に一体型のポストを装着しました。
最終補綴物を装着して13年半後
「犬歯周囲の唇側 歯間部の歯肉が腫れ、指で押さえると違和感がある。」と来院されました。
全体的に歯肉に発赤・腫脹が認められるためレントゲン撮影してみると、犬歯の支台歯周囲にむし歯らしき透過像(矢印 赤)が認められました。
さすがにこのままでは他に悪影響を及ぼすため、早めに一部の補綴物の除去を勧めましたが、おさぼりがちだった歯磨きをもう一度頑張ってもう少し様子を見たいと言われました。
しかし、今まで以上に歯磨きをしても歯肉の腫れは変わらず、2ヶ月後には更に腫れ、痛みも伴い鎮痛剤を服用したようです。
それから2週間後 患者さんは「もう少し怠けないで歯磨きすればよかったと少し後悔はありますが、無理を承知でこのような設計を叶えてくれたことに感謝し、今まで10年以上何の不自由もなく使えたのが奇跡だと思います。少し寂しいですが、もう入れ歯の覚悟はできていますので他の歯に悪影響が出る前に外してください。」と覚悟を持って来院されました。
犬歯(最後支台歯)から延長部を切断除去しました。
やっぱり駄目だったと言うより、3歯延長という過酷な条件を正直13年半もよくここまでもったなぁという感想です。
ブリッジにすると歯の寿命が短いなどと言われ、特に延長ブリッジは避けたほうがよいとされていますが… どうしてもという患者さんの願いに便乗した設計で10年以上経過したことに驚きを隠せません。
後にも先にも3歯延長ブリッジにて対応した症例は2例しかありませんが、今回のケースとほぼ同時期に同じようにどうしても歯を伸ばしてほしいと言われ、3歯延長ポンティックで対応したことがあります。以下に2例目を紹介します。
68歳 男性
昔から知人の歯科医に全顎的を治療してもらい、最近では行くたびに歯を抜かれどんどん入れ歯が大きくなりました。上に入れ歯を入れてからはうまくしゃべれないので周りの人には何回も聞き直されます。このままでは近い将来1本も歯がなくなるのではないかと心配で、それに伴いもっと不自由になることが辛いので… と全顎治療を希望され、上顎には入れ歯を入れたくないと強く希望されました。
このケースは歯根の状態が極めて悪く(根尖病巣・穿孔)、正直何度もやめるよう説明を繰り返し、他の治療法を提案しましたが自分の責任でやるからどうしても自分の思っているやり方で作ってほしいと押し切られ、お付き合いしました。
初診時
再根管治療からスタートしました。
最終補綴物装着時
3歯延長ポンティック部(矢印 黄)
最終支台歯の犬歯には穿孔(矢印 赤)が認められ、SBにて塞ぎました。(パーフォレーションリペア)
隣接の側切歯は本来の根管から反れて根管形成されていたため、本来の根管にポスト形成を行い、支台を装着しました。(矢印 緑)
最終補綴物を装着してから非常に調子よく使えていたようですが、10年ちょっと経過したときに穿孔していた犬歯が歯根破折を起こし、いよいよ抜歯となりました。
(この当時は現在とは違い、歯根破折歯はすべて抜歯対象でしたので抜歯となりました。)
正直最終的な結末がある程度計算できる設計ですから、医療サイドとしては行いたくない治療法でしたが…
実はこの3歯延長ブリッジを行った患者さんは、どこに相談しても入れ歯かインプラントを強く勧められ半ば諦めかけていたのですが、最後に相談した知人の歯科技工士さんから延長ブリッジの可能性を聞き、それを頼りに当医院に来院されたのかきっかけでした。
患者さんの知人は多くの知識 技術を習得された歯科技工士さんですが、以前にロングスパン延長ブリッジの症例経過を講演会で見たことがあったそうです。その講演をした術者へは受診は遠方のため断念し、術者と私が深く関わりがあったため、同様の診療スタイルを手掛けていて通院できる範囲の私のところに相談に来てこのような設計を強く望まれました。
私はロングスパン延長ブリッジ治療を行ったことがなかったため戸惑いましたが、患者さんも私も覚悟を決め、無理は承知の上で取り組んだ2例でした。2例とも10年以上義歯・インプラントから遠ざかる環境で過ごせたことに患者さんが満足されたことは医療者として救いで、最終的に不具合を生じても今回のような治療をしてもらえて本当に良かったと言って頂け、喜んで頂ける医療を提供できたことは嬉しく思います。
結果的に両患者さんからはとても感謝されましたが… 延長ブリッジの結末はおおよそ見当がつくため正直積極的には行いたくない治療法でむしろ避けたい治療法です。ましてや今回のようなロングスパンの延長ブリッジはリスクが高すぎる治療法ですから通常はまず取り入れない治療法です。
よく延長ブリッジは批判されますが、今回のように普通の延長ブリッジよりも更に無謀とも言える3歯延長ブリッジ治療の2例がたまたま良い状態で10年以上調子よく使えたことに正直驚きを隠せません。残念ながらその後トラブルを起こしてしまいましたが、この体験を通してある意味いろんな可能性も秘めていると感じた2例でもありましたし、患者さんの希望に寄り添って行うことができた治療法に今は満足しています。
よく患者さん満足の医療と言いながら、実は医療者満足になっている医療も多く見かけます。
望みがあれば、「無謀」「これはどうやっても無理だろう」と決めつけるのではなく、患者さんの要望や希望に寄り添い、厳しいとわかっていても納得した上でそれに向かって共にチャレンジすることもとても意味のある医療だと改めて教えられました。
両患者さんのこれからも見守りたいと思います。
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