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「メタルフリー・メタルレス・ノンメタル」について - vol.60 -

歯科医療で近年盛んに「メタルフリー・メタルレス・ノンメタル」が良いとされ、金属系の修復物は古臭く、白い素材の修復物が美的な治療と思われている方も多いのではないでしょうか?


金属系を使用しなくなってきている多くの理由は、

・見た目が美しくない(審美的要素)
・金属アレルギーが増え、全身の健康に影響が出る可能性がある
・金属の価格高騰
・時代の流れ、流行
・患者さんに受けない

などが言えるでしょう。



確かにアレルギー体質や健康を害しそうな方、審美的観点から受け付けられない方にとっては、良い治療法と言えるでしょう。
しかし世の中の風潮にとらわれ過ぎて金属が良くないという判断には、個人的に浅はかな考えに思えます。
 
金属系の素材は歯科業界では昔からあらゆる場面で使用し、とても重宝し歴史が長い素材です。金属の種類にもよりますが、非常に安定性が高く、優れた強度を持ち合わせているものも多く存在しますから、全てを否定し白い素材(金属を使用しない)の方が優れているという解釈には疑問が残ります。


テレビや雑誌での紹介に始まり、この歯科業界でも白い素材のセラミックやコンポジットなどは日々発展をしていますが、使い方や治療法によってはかえって歯にトラブルを与えかねないこともあります。
白い素材で治した歯は、もっともらしく治したように見えますが最適な治療内容になっているものばかりではありません。

素材の特性を熟知した上で、医療者側に症例ごとに対応できる力量があり、精度に優れた補綴物であれば満足のいく結果に結びつくでしょうが、「患者さんに受けがいいから」「流行だから」「みんながやり始めたから」「導入しないと遅れるから」などの表面上の安易な活用だけでは決して最善の結果は得られないでしょう。



当医院には、前医から今までよりもきれいで素晴らしい治療法だからと勧められ、メタルフリーの白いセラミック・コンポジットの歯を装着したにも関わらず、治療初期から不具合や経過に納得できず、再治療を希望される方も多くいらっしゃいます。

それらを分析すると、見た目が白いというだけで、多くは中身がないお粗末治療であることがとても多いのです。もちろん見た目だけでなく機能的にも優れた白い修復物も目にすることはありますが、多くは治療精度が悪く、見た目優先の形態であるため歯の周囲の掃除ができない環境であったり、材質の破損を恐れて噛み合わせをさせないように装着してあったりと、見た目だけを重視していることで本来の機能回復や手入れができない状態であれば、見た目で納得できていても、口の中の組織・細胞が納得しないと思いませんか?


説得力のある提案で納得の得られる「メタルフリー・メタルレス・ノンメタル」治療であれば満足されるでしょうが、その場しのぎでかえって口腔内環境を悪化させてしまうような治療結果であれば、ただ歯を白くしただけに過ぎず、異物を装着したのと同じ解釈をされても仕方がないでしょう。

機能性や清掃性のことを考慮し、強度や耐久性を理解したうえで審美修復したものは素晴らしい治療になりますが、ただ金属から白い素材に変えるような安易で無知な治療はかえって歯の寿命を短くしたり、再発の要因を増やしてしまっていると思ってください。




金属系がセラミックやコンポジットに勝る点
金属系の利点は複雑な設計製作が可能で、辺縁封鎖性にもっとも優れ、伸びのある素材であり、天然歯とほぼ同等に咬耗することです。そしてもっとも優れる点は、耐久性であり、寿命が長いことでしょう。見た目には劣りますが、機能の上では断然金属系に軍配が上がります。

セラミックはどうでしょう?
セラミックはとても歯肉や他の組織に対して親和性の良い素材です。しかし少々硬い素材であるためセラミックが破損したり、相手側の歯を必要以上に削ってしまう傾向があります。

コンポジットはどうでしょう?
とても簡単でしかも短時間で修復できる素材と謳われていますが、精密に取り扱うにはとても技術を必要とします。世界的にみて奥歯にコンポジットをここまで推奨しているのはおそらく日本くらいではないでしょうか。強度や安定性(色調・咬耗)そして歯髄に対する安全性を比較した場合は、金属系・セラミックと比較した場合、正直足元にも及びません。

そしてコンポジットの最大の欠点は、歯質とコンポジットの境界部の封鎖性です。コンポジットを固める際に材質が収縮しながら固まる(重合収縮)特性があるため、術者の技量によりとても出来栄えに差ができてしまいます。

簡単に行なえる治療である反面、かえって時間の経過とともに不具合を生じさせる材質になり兼ねますから、個人的には特例を除き奥歯にはお勧めしたくないタイプの材質です。




メタルは身体に良くないと言いながら…
メタルフリーを推奨している先生が多くいらっしゃいますが、ひとつ大きな疑問があります。歯に詰める・被せる治療ではメタルフリーを推奨していながら、インプラント体(金属系のネジ)を骨に植えている治療を積極的に行なっている場合です。歯に詰めている・被せている金属は身体によくないから樹脂系・セラミック系を勧めるようですが、骨に金属系を埋めた場合は問題ないのでしょうか?


目で見て見える個所は金属を避けて、見えない骨の中や根の中の金属には目を向けないのは少し不思議な感じがしてなりません。

インプラント体は安全性の高いチタンという金属で作られているのがほとんどでしょう。チタンは生体親和性が高く、整形外科分野でも多く使われている金属です。安全性が高い金属ですが、金属は金属です。安全性が高い金属だから使用しても大丈夫と判断しているのか?骨に埋めて目に見えないから大丈夫と思っているのか?メタルフリーと言っていながらインプラント体に金属系を使用するのはナンセンスではないでしょうか?

金属アレルギーが話題になる金属は、保険診療枠で使用できる銀合金・パラジウム・ニッケルなどが主です。保険外で使用できる金・白金・チタン等ではほとんどアレルギーの問題は耳にしません。よって金属全てがアレルギーに関与するのではなく、引き起こしやすい金属と引き起こす可能性が低いものがあります。もちろん金・白金・チタンにアレルギー反応を示す方もいらっしゃいますので全ての方に安心な金属とは言えませんが、生体親和性に優れかなり安定性があります。よって金属の種類でアレルギー反応に差がでるため、金属=アレルギーというシナリオは覆されます。


安易なメタルフリー治療は、その時はとてもきれいで満足のできる治療でしょうが、長期で観察した場合、歯周組織・噛み合わせ・顎関節等まで悪影響を及ぼす可能性が多くあります。それを理解された上で治療されることが大切です。そのため、表面上だけのメタルフリーを推奨している場合は、自費治療を勧めるための話術に過ぎず、中身のない歯科医療と疑われても仕方がありません。


このようなことから私はアレルギー体質ではない方で機能性や強度を含め長期に安定を求めている患者さんには、奥歯に関してはできるだけ金属系を使用した設計を提案します。ただ表面上が白くて美しくても、強度に不安があり、劣化が早く安定性にも不安があれば長期にベストな状態をキープすることは難しくなるからです。




歯科技工士さんからの助言 
私は多くの歯科技工士さんと交流があるため、たびたび面白い話を耳にします。その中から今回のテーマについてのお話を紹介します。

近年金属を使用せず白い歯を推奨する先生が増えたことで、そのニーズに合わせて材料・機材を導入し、日々格闘しているようです。実際のところ今までの金属系の材料と違い、製作時の破損に気を遣う反面、精度の低下に戸惑いを感じることも多いようです。


技工士の皆さんに「自分の歯に装着したいですか?」と聞くと、試してみたい気もあるが…と答える方もいますが、大半の方は以前の金属系を選択されます。「どうしてですか?」との問いに「正直金属系と比較すると強度的に無理があるのと、相手の歯(反対側の噛む歯)に負担がかかりそうで… できるならより確実な方法で対応したい」と製作する技術者のプロである歯科技工士が躊躇なく金属系を選択するのですから、ここで私が多くを語らなくてもご理解いただけると思います。

金属系は良い金属なら材料的には問題なく使用できるのですが、時代背景が邪魔をして悪者になっているのは残念で仕方ありません。金属系が決して悪いものばかりではないことを理解して頂けると治療の幅も広がります。