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「やる気 本気」 - vol.86 -

先日以前から通院している中学3年生の女の子から相談を受けました。「前歯に穴が開きました むし歯ができたみたいで気になります 治してください。」と… 母親と一緒に来院されました。

この患者さんは小学3年生頃から自分が気になるときだけ母親に連れられ来院されていた患者さんです。乳歯はむし歯だらけで歯磨きをする習慣もなく、甘いもの漬けの生活をしていたため、母親と本人に生活習慣の指導をしていました。母親はわかっているのですが、本人は反抗的な態度で耳を傾けることはありませんでした。むし歯が気になるときに来院するだけで、その度に「むし歯を治すことよりもむし歯を作らないことをしないとずっとこの状態が続くから少し考えよう」と声掛けするのですが、本人にその気は全くなく、大人を完全無視するような態度で席を立つ感じでした。
本人のことを思うとむし歯を治してあげたいのですが、口腔内環境があまりに悲惨な状態で、見直さない限り処置が困難な状態のため、いろいろなアプローチをするのですがいつも空回りでした。
こんな関係が5~6年続き、幸いにもむし歯が大きく神経にまで達していたほとんどの乳歯はさほど痛みもなく永久歯に生え変わりました。しかし食生活 歯磨き習慣は相変わらずです。
ある日 痛みはないようですが、6歳臼歯の1本が残根状態で来院されました。正直抜歯しか治療法がないような状態で、そのことを母親と本人にお伝えし、永久歯がなくなるともう生えてくる歯が無いので、これ以上永久歯をいじめるような生活をし続けるようなら私はお手伝いできません。一緒に歯を守る努力をするなら協力しますが、今のままでは医療者としてお手伝いするのに限界があることをお伝えしました。

それから数ヶ月何の音沙汰もなく時が過ぎ、「前歯にむし歯ができ穴が開いて気になるので診て下さい。」と来院されたのですが、今まで悲惨な口腔内だったのが別人の口の中のようになっていました。今までべったり歯についていたプラークは見事に取れていて、真っ赤に熟れた歯肉はきれいなピンク色の健康的な歯肉に変わり、正直驚くほどきれいな口腔内でした。何かをきっかけに目覚めたのでしょう?歯磨きも頑張り甘いものもほとんど食べなくなり、歯をしっかり治したいと意識が変わったようです。
本人に「よくなったね 凄いね!」と一言 「前は毎日板チョコ1枚 そしてたくさんお菓子を食べていた。歯もたまに磨くだけでいつも適当 でも前歯のむし歯が気になって さすがにこのままじゃまずいと思って…」と照れくさそうに教えてくれました。

彼女に歯を大切にしたいというスイッチが入り、自分で何とかしないと…という思いがこのような行動に反映したと解釈できます。そして今まで耳も傾けなかった話も素直に聞き入れ、顔も穏やかになり態度もまるで別人です。

少し大人に近づき、美や異性に対する意識も重なった時期かもしれませんが、意識が変わりやる気が出て本気モードに変化したことで、予防を主軸に適切な治療が提供できる状態になりました。この変化は本当に良かったと思います。




歯科医療において治療を円滑にそして確実に進めるには患者さんの協力が必要になります。
まず必要なことは、自己で行える口腔内環境の見直しや改善です。
むし歯や歯周病で通院している場合、原因の排除・見直しを行なわないうちに治療を進めても根本治療にはならず、時間の経過とともに発症・再発する可能性があります。

大切なことは、日常の習慣に目を向け、間違った習慣があるようなら見直してから治療に臨まなければ真の治療は成り立ちません。そして本当の意味で歯を守ることはできません。 



例えばこんな方がいらっしゃいます。
重度の歯周病で歯磨きの大切さを知っているにも関わらず来院するたびに大量のプラークが付着している患者さん。
これ以上悪くなると噛む歯が無くなり、入れ歯になることを認識しているにも関わらず歯を磨きません。歯磨きの大切さや必要性をお話しするのですが…「昔から歯を磨く習慣がほとんどないため、とにかく歯磨きが面倒くさいのであまりやりたくない。」と磨こうとしない方。これでは医療者がどんなに頑張って治療しても成果は得られないでしょう。

また、頑張って歯磨きをしていても定期的にむし歯ができてしまう患者さん。大の甘党で、朝からパンにジャムをべったり そして食後にケーキなどを食べていれば、むし歯になるのも当然です。いくら歯磨きを頑張っていても細菌が大量に繁殖するような食生活をしていたらむし歯の発症・再発は避けられないため、見直しや改善したほうがいいことをお伝えするのですが… 「もともと甘党だからやめれない・控えられない」と言われる方がいらっしゃいます。

そして、長く歯周病に悩まされている患者さん。歯磨きの技術もよく食生活もかなり頑張っているのですが、歯周病に悪いタバコがやめられません。そのためどんどん歯槽骨が吸収し奥歯から徐々に歯を失っているため、禁煙を勧めるのですが… 「タバコだけはやめられない タバコがないと生きていけない」と言われ、吸い続けている方。


このような方に口腔内に悪影響を与えている生活習慣のことを指導すると…


幼少の頃からあまり歯を磨いたことがないのに今更歯磨きなんて面倒臭くて嫌だ。
むし歯をきちんと治して良い環境で歯を長く持たせてもらいたいが、自分が大好きな甘いものを控えろと言われるのは嫌です。
またタバコを吸っていて徐々に歯周病が悪化しているのは認識しているが、毎日徹底的に歯磨きを頑張っているので、タバコのことを言われるとストレスが溜まる。
「歯医者は皆声を揃えて同じようなことを言うが、自分の自由だろ」と言われる方もいらっしゃいます。


確かに自由ですから見直しも改善もしなくてよいでしょう。
しかし原因があって病状が悪化している状態であれば、その原因を見直しそして改善、取り除かなければ真の成果は得られません。成果を期待するなら考えなければならないことなのです。
そして上記のような方に「しっかり治して長く持たせてほしい」と言われても要望を叶えることは難しくなります。片方で好き放題のことをして医療者にお任せ体制では、希望に沿う治療や好結果を望まれても困ります。


生活習慣(食生活・ブラッシング・禁煙等)を変えてもすぐに身体で感じるほどの結果が現れる場合は少なく、継続したことで成果が現れることが多いため、成果を感じる前に諦めてしまったり、挫折してしまう場合が多くあります。そのため長続きしないような場合が多いように感じますが、これらは生活習慣から問題を起こしている全てに当てはまることです。


「自分の歯を自分で守りたい」と本気で考えている方は、生活習慣の中で悪影響を与えていることを知ると、見直しや改善をする努力をします。そしてある程度の成果が得られるともっと見直しや改善を心掛け成果を求めます。反対に努力しない方は言い訳や愚痴ばかりが先行して何も成果を得られません。


私が思うに、医学的な内容や事例を話すだけでは真から意識を変える力は薄く、頭では「やらないと」「変えたい」と思っていても、どこかで「やりたくない」「変えたくない」と思っている場合や医者や周囲に説得されているうちは、一時的なスイッチを入れることはできてもなかなか継続せず本気モードになりません。本人が納得し、腑に落ちるレベルまで身体で体感しないと安定した結果が伴わず、本当の意味で見直し・改善そして継続しないように思います。



根本治療を通して多くの患者さんと接していると、多くのことが勉強になります。