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根管治療と歯の寿命の関係について - vol.45 -

歯の神経は除去しないのが本来一番よいのですが、神経を除去する治療が必要になったとき、最初に適切な根管治療(根の治療)をしてもらったかどうかでその歯の寿命が大きく左右するのをご存知でしたか?

神経を除去しても適切な根管治療が行われていれば、物理的に歯の強度は除去する前より劣りますが、普段生活するうえでほとんど支障がないほどに使うことができます。しかし、不適切で手抜き治療 いわゆる杜撰な治療をされていたらどうでしょう。極端に歯の寿命を短くしてしまうどころか、歯の保存すら困難にしてしまい、その周囲にも悪影響を及ぼすことでしょう。



【根管治療とは…】  
根管治療は、正確に根管(神経が通っている管)の長さを測定し、神経を確実に除去し、針のような清掃器具で感染した根管内の壁をしっかり確実にきれいにします。そしてきれいになった根管内に治療薬を貼薬し、予後観察します。

術後の経過が良好で症状がなければ、最終的にきれいになった根管内に緊密に充填剤を詰める(根管充填)ことで根管治療が完了となります。

言葉にすると根管治療の手順は簡単のように思いますが、神経の本数(根管数)は歯によっても異なりますし、根管内形態も個々にさまざまで複雑ですから臨機応変に対応しなければならないため、慎重に行なう必要があります。

そして、適切な根管治療を行うには、常に真剣に根管治療に取り組む姿勢と経験、そして根気と技術が必要な分野です。十分な手間と時間を要する治療ですが、歯の寿命を考えるともっとも大切な治療のひとつと言えます。



【根管治療は最初が肝心】  
根管治療は建築に例えると基礎工事になります。基礎がしっかりしていない状態で上物を作ったらどうでしょう。いわゆる手抜き工事の欠陥住宅になってしまいます。

根管治療においても同じことが言えます。根管治療がおろそかになっているといずれ支障がでる可能性は非常に高くなります。支障がでてもまだ再治療で治せる範囲であればよいのですが、最悪抜歯に至る場合もあります。また隣接している歯にも悪影響が出てしまうこともあります。

欠陥住宅なら更地にして建て直せば修復は可能でしょうが、歯に関しては永久歯がその後生え変わることはないため、代用がありません。そして、歯を支えている骨が溶けだしてしまったら、致命傷になりかねません。

そのため根管治療が必要になった場合は、最初に行った治療内容が肝心なのです。



【適切な根管治療からその後の治療へ】  
根管治療がひと通り完了し、その後症状がなく、良好な状態ではじめて次のステップへ進むことができます。

根管治療後に力を入れて噛んだ時に痛みを感じたり、根の奥の方で何となく違和感が残っているような場合は、少し経過を観察し、症状が消えてからその後の治療を進めるのが安全でしょう。もちろん根管治療後に指で叩いたり、噛むとあきらかに異変を感じる場合は、問題が何か残っている場合があるためその後の治療を進めるのは危険です。

根管治療を終え次の治療に進むには、症状が完全に消えてから行うのが安心安全でしょう。



【根管治療終了後は必ずレントゲン撮影で確認を】  
根管治療に用いる根管充填剤が、きれいに清掃した根管内に的確に過不足なく詰められたかどうか確認するため、根管治療終了後にレントゲン撮影(デンタル)し、患者さんに説明するのは歯科医の責務です。

治療前と治療後の比較や場合によっては治療の途中経過と比較しながら説明を受けると、自分の歯の治療経過がしっかり把握できますので、しっかり説明を受けた方が良いでしょう。

患者さんから以前は根管治療途中・根管治療後のレントゲン写真も見たことがなく、説明もろくになかったなどとよく耳にしますが、本来あってはならないことだと思います。

根管治療はそもそも何をしているかわかりにくく、根の中の治療ですから見てもわかりません。わからない見えないからこそ患者さんにはしっかり納得のいく資料提供が必要だと思います。



【神経を除去した歯は…】  
神経を除去してしまった歯は物理的に脆くなります。そのため割れたり・折れたりしやすくなるため、強い力が加わる臼歯部の部分的な被せ物での対応はお勧めできません。したがって原則的に補強目的に全体を被せるタイプの被せ物をお勧めします。

前歯に関しては歯質の保存状態にもよりますが、詰め物で可能な場合もあります。



【杜撰な根管治療の実態】  
来院される患者さんの以前に受けた根管治療のレントゲンをよく目にしますが、適切な根管治療をされているのは私が見てきた限り全体の1割にも満たないのではないかと思います。これではいくら良い被せ物を入れても、患者さんが治療後のケアに力を入れても意味を成さないのではないでしょうか?

根管治療は本来とても複雑で時間が掛り難しい治療ですが、多くはただ痛みをとるだけの簡単な処置で終わってしまっている場合が多いように思えてなりません。

本来あってはならないことですが、手抜き治療されてしまうことがあまりに多いようです。



杜撰な根管治療の代表的な例は、

 ・しっかり神経が除去れていない
 ・薬を詰めていないもしくは本来の位置まで薬が詰まっていない
 ・薬を密に詰めていないため根管内がスカスカな状態
 ・一部治療されていない根管が残っている
 ・根管治療に使用する清掃器具が折れて詰まっている


など、このような杜撰な根管治療で治療が完了していると、感染によって根を支えている骨が溶けてしまうことが多く、かえって歯の寿命を短くしていると言わざるを得ないのです。


患者さんはしっかり治してもらってあると思っているはずです。しかし実際には患者さんには見えない場所ですから、適切な治療をされたかどうかの判断はできません。
そのため患者さんは歯に異変を感じて、歯科医院に行ってはじめて悲惨な自分の歯の実態を知ることが多いのです。



【難易度が高い再根管治療】  
根管治療は、最初の治療でも手間のかかる治療ですから、再治療となれば察しがつくと思います。
本来最初に適切な根管治療がされていれば、よほどのことがない限り再根管治療の必要はありません。ところが現実は、再根管治療の割合が非常に多いのです。それほど最初の根管治療のいい加減さがわかります。
私も今まで数多くの再根管治療を行ってきましたが、再根管治療は通常の根管治療よりも厄介で手間のかかるものが大半です。

適当に済まされた治療からの再治療は、多くの場合病状が思いのほか進行している場合が多く、慢性的な炎症で広範囲に骨(歯槽骨)が溶けていたり、炎症が長期にわたり存在していたため根が吸収しているような状態だったり、本来の根管から反れて治療されたことによる二次的な疾患の発症などなど問題が複数に合併している場合もあり、正直手を焼く場合も多くあります。



【神経の治療後 痛みがなくなったから治療途中で放棄】  
根の治療に限らず全ての治療に言えることですが、私たち医療者からみたらとても困った患者さんに値します。
患者さんの都合で治療が中途半端な状態で放置された場合、その後医療者は責任をもった対応ができなくなってしまいます。

根の治療を中途半端にしている場合、二次感染が起こる可能性や歯冠・歯根の破折によって保存するために行った治療にもかかわらず、抜歯になる場合もあります。

このような残念な結果にならないようにしっかり最後まで治療を受ける患者さんの姿勢も大切です。
曖昧な自己判断で中途半端な処置で終えず、しっかり治療が完了してこそ本来の歯の機能が成し得るのです。