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なぜこの歯が抜歯に? そしてインプラントなのか? - vol.103 -

症例 1 (30代 男性)  

「歯の神経が腐敗し骨にまで炎症を起こしているため治療する価値はありません。仮に治してもまた再発するでしょうから若いうちに抜歯してインプラントを入れたほうがいいですよ。抜いたと同時にインプラントも入れられるので麻酔も一度に済みますから楽ですよ。 どうします? と説明を受けましたが、歯科治療が怖いのとまだインプラント治療は避けたいので知人に相談したら、先生を紹介されました。」と来院されました。


感染根管治療で治すことができる状態です。適切な治療を行えば再発する可能性も限りなく少ないはずです。
もし仮に感染根管治療にて治癒しなくてもその後として外科療法を取り入れれば治癒すると思われるため、抜歯してインプラント治療は現時点で過剰ではないでしょうか。











症例 2 (70代 女性) 

「今仮歯が入っている状態で特に症状もないのですが、この歯は根が短いので抜歯し、全体的にインプラントを入れる治療が必要と言われました。本当にすぐにでもインプラント治療をしないといけない状況なのか?不安です。」とセカンドオピニオンで来院されました。


確かに歯根がやや短いようですが、骨がしっかりあるためわざわざ抜歯してインプラントにする必要性はないと思います。











症例 3 (60代 男性) 

「部分入れ歯を入れていましたが、1本の歯が根元で折れました。掛かりつけ医に相談すると、他の歯も状態が良くないので、4本抜いてインプラントを合計6本入れましょうと言われています。正直部分入れ歯が煩わしいのでインプラントもいいかなぁと思いましたが、金属の芯を体に埋め込むのが怖くて家族に相談したら、先生を紹介されました。」と相談で来院されました。



折れた歯を含め、他の3歯を抜く意図が分かり兼ねます。
まだまだ骨もあるため、しっかり再治療すれば十分使えます。抜かなくてもいいと思うのですが…











症例 4 (30代 女性) 

「この歯を根管治療してくれた先生から、健診時に根管治療歯の寿命は平均5年と言われました。この歯はもう限界でしょうから、早めにインプラントにしましょうと言われたのですが、何ともない歯を今のうちに抜いたほうがいいのでしょうか?」と来院されました。


根管治療歯の寿命が平均5年なんて聞いたことありませんし、何を基準におっしゃられているのか理解できません。
担当医は5年程度しか持たない根管治療しかできないのでしょうか?











症例 5 (40代 女性) 

「風邪を引いたときに上の歯の奥歯がうずいて重い感じがしたため、近所の歯科医院を受診しました。金属の被せものが怪しくアレルギーの問題も指摘されましたが、根の奥に炎症があり場所的に根管治療の再治療ができないので抜歯してインプラントとセラミック治療しかできないと言われました。今は風邪が治り歯の症状も落ち着きましたが、前医に他の処置法がないと言われたことが気になり、難しい状況なら自由診療を専門でしている先生に意見を聞いた方がいいと思い…」来院されました。


歯根が上顎洞と近接しているため、風邪を引いたときに炎症で症状が一時的に出たのかもしれません。このような時期は経過を見ながらの診察が大切なのですが…  
どうして再根管治療ができないのか? インプラントとセラミックしかできないのか? あまりに自己中心的な治療計画です。











症例 6 (40代 女性) 

「金属の土台が入っている歯は、中でむし歯が大爆発しているため再治療はできません。早めに抜歯してインプラントにしないと大変なことになりますよ。隣の神経をとってある歯ももう長くはもたないと思うので、ついでに抜いて4本インプラントを入れるようにしましょう。と現在通院中の先生に言われました。こんな話を聞いて怖くなり知人に相談したら、先生を紹介されました。」と来院されました。




金属の土台だからむし歯が大爆発なんてことが、すべての歯に当てはまることではありませんし、このレントゲンのみでは大爆発といえる判断はできません。また神経をとってある歯もしっかり再治療すれば、まだまだ現役で使えそうです。
どうして4本抜いてインプラントが必要なのでしょうか? 意味が分かりません。











症例 7 (30代 女性) 

「最近噛むと奥の方で違和感を感じるので近所の歯科医院を受診すると、根の再治療をして被せ直ししてもまたすぐに再治療が必要になると思われるので、骨があるうちに2本抜いてインプラントにしましょう と勧められました。そんなに酷いのでしょうか?」とセカンドオピニオンで来院されました。


根管治療の不備から根の先が感染し炎症を起こしているため、適切な感染根管治療を行えば治ります。患歯だけでなく手前の歯までも早々にインプラント治療を提案するのは何故でしょうか? 意味不明です。











症例 8 (50代 女性) 

「奥歯が歯周病で骨が溶けています。これ以上溶けてから治療すると今後は限られた治療しかできないのと手前の歯も骨が溶ける前に処置した方がいいでしょう。すぐにでも抜歯し早めにインプラントを2本埋める治療をした方がいいですよ。と通院先の先生に強く言われました。そのことを家族に相談したら先生を紹介されました。」と来院されました。


最後臼歯の周囲骨が炎症により少し減っていますが、今すぐ抜歯してインプラントにする必要性はありません。手前の歯についてはインプラントにする意味が理解できません。
この程度の骨吸収で早めにインプラント治療を進めるのは如何なものでしょう?
不衛生な環境を改善すれば、骨も十分安定すると思われます。











症例 9 (20代 女性) 

「この歯は掛かりつけ医で半年前に神経を除去し薬を詰め銀歯を被せました。当時7~8回根管治療したのですが、治療中かなり痛みがあり我慢して治療を受けました。銀歯を被せてから歯ごたえのあるものは痛みが出るため噛みたくありません。掛かりつけ医に健診に行ったときにレントゲンを撮ったら、根の先に膿がありこれ以上治療しても治らないので、抜歯してブリッジかインプラントを勧められました。他の先生の意見を聞きたくて…」と来院されました。


根管治療中に根管治療用器具(リーマー・ファイル)が折れた根管の根尖部に透過像が認められます。根管治療の不備から炎症を起こしているようです。最初の抜髄でこのような治療をしてしまう先生ではおそらく再治療はできないため、抜歯を宣告されたのでしょう。抜歯しなくても適切な処置を行えば、炎症は治まり噛めるようになります。











症例 10 (50代 女性) 

「奥歯にセラミックのブリッジを1年前に入れたのですが、時々奥の歯の周りを歯磨きしたときに嫌な臭いがするときがあったため、治した先生の歯科医院を受診しました。ブリッジを入れてくれた先生は以前勤務していた先生だったようで、退職していなかったため院長が診察してくれました。そこでレントゲンを見た院長から… 奥の歯は割れていて使い物にならない。そしてブリッジは歯をダメにするだけだから、最悪な方法です。今のうちに奥歯を抜いて2 歯分インプラント治療をした方がいいので、次回から処置していきます。と淡々と言われました。思ってもみない展開とあまりにそっけない態度に恐ろしくなり、逃げるように医院を飛び出しました。その後職場の知人や近所の人に相談したら、各々同士は面識がないのに先生のことを教えてくれました。お二人とも以前にかかっていた歯医者から抜かないといけないと言われた歯を先生に救ってもらい感謝していると言っていましたので、私もその話を聞いて元気がでました。先生どうぞ診察をお願いします。」と来院されました。


このレントゲン診査だけでは歯が割れていると断定できません。
そしてブリッジは歯をダメにするから… そんなことはありません。しっかり設計し適切に治療すればとても価値ある治療法です。
今回の場合、1年前に勤務医にブリッジ治療させておいて、トラブルが起きた時点で診察も適当に済ませ、治療法を否定して早々にインプラント治療に移行しようとする行為は如何なものだと思います。
本末転倒です。







上記に掲載した症例は抜歯してインプラント治療に不安や怖さそしてなぜ?を感じ、転院してきた一部の患者さんです。
どうしてこの歯を抜歯するの? とあまりに保存治療をして歯を残そうとする努力がなく、逆に驚くほど早く抜歯しようとする治療方針に同じ歯科医として憤りを感じます。


これでは「歯を大切にしましょう」「いつまでも自分の歯で楽しい食生活を送りましょう」「80歳まで20本の歯を残しましょう」などと一生懸命歯を残そうと努力している医師たちとあまりにかけ離れた医療事情です。
このようにあまりに不適切な情報を提示し、簡単に抜歯宣告する医療は昔も今も一部では変わらないようですが… 抜歯を不信に思わず担当医に言われるがまま治療していたらすべて抜歯されていたことでしょう。



しっかり治療すれば守れる歯を何故歯科医自ら簡単に抜歯を選択するのでしょうか? 

できるだけ歯を残すことを何故考えないのでしょうか? 

このような状況が仮に自分だったら… また家族にだったら… 同じ治療法を提示するでしょうか? 

歯科医師は、患者さんの歯を残すことに最大限の努力を払うべきであり、インプラントをするのはそれでも歯をどうしても残せない場合にすべきではないでしょうか? 




また上記のような症例実態が歯科医の身勝手な収益目的での治療方針なら患者さんが気の毒でしかありません。


納得できない 理解できない 怖い などと思ったら、思い切って他の先生に意見を求めてもよいかと思います。


自分の受けた治療の質を正しく判断する目を養うことが患者さん自身でもできるようになれば、歯科医療の向上に発展します。より適切な医療が正しい評価を得られるような歯科医療界になることを願います。