難しい再根管治療
症例 7 - vol.58 -
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32歳 女性
「3年半前に応急処置で神経をとる治療(抜髄)を行い、その後根管治療を繰り返し行ったが症状が改善しないため、他歯科医院を受診。再び根管治療を繰り返しましたが改善しません。
その後も2~3軒の歯科医院で根管治療・レーザー照射治療をしても改善の兆しがなく、最終的にインプラント治療の提案を受けたそうです。インプラントは避けたかったので相談したら他県の根管治療専門医院を紹介されたそうですが、事情により受診できずに今日までそのままでした。口蓋側より膿がでるため心配です。」と当医院に来院されました。
患歯の口蓋側には何も詰め物がなく、指・舌で歯肉を押えると歯と歯肉の間から膿が頻繁に出るようです。
根の治療が完治していないのですが、途中でラミネートベニア治療を受けたそうです。
根管充填されていますが、根尖より根充剤が飛び出しています。
歯根中央から根尖部にかけて広範囲に透過像が認めらます。
治療法は根充剤の完全除去と根尖孔の確実な封鎖、嚢胞の摘出及び歯根周囲のデブライドメント・根切除などいろいろな手技が必要となる可能性があるため、再植法で対応することにしました。
再植前の前準備として根充剤を除去していったところ、根尖孔から飛び出した根充剤を苦労しましたが運よく除去することができました。
根管に薄っすら根充剤が残っているように見えますが、拡大観察しても根管内には残っていません。
排膿が認められる口蓋側には根面溝が認められ、歯周ポケットは12 ~15mmあり(それ以上は知覚があるため本来のポケット底部は探れませんでしたが、おそらく20mm近くはありそうです)、ポケット内からは根充剤の一部が除去できました。歯周ポケットに存在する一部の根充剤がレントゲン上に写っている模様です。
根面溝から根尖にかけての骨欠損が思った以上に深く、嚢胞と交通していることから、根尖病変が主だった嚢胞とは考えにくく、根面溝も深く関わっているように思えます。
病巣はエンド由来よりもペリオ由来の可能性が強いのでは…と感じました。
運よく根管内~根管孔外に飛び出た根充剤が除去できたため、再植前に貼薬して症状と透過像が変化するか少し観察することにしました。
3ヶ月後
以前のような腫れはないようですが、1~2回 膿の塊のような物が口蓋側から出てきたようです。
根充剤が残っているように見えた像はなく、ポケットから異物排除機能により排出されたかもしれません。
根充剤をきれいに除去しても透過像の大きさに変化がないことから、現在のところ根管内の問題は少ないと判断できるため、予定していた意図的再植法で対応します。
根管充填剤除去7ヶ月後
患者さんの諸事情によりその後治療の進展はありませんでしたが、突然唇側部が腫れ痛みをともなうため来院されました。
痛みのピークは一昨日だったようですが、患歯上部歯肉にサイナストラクト(旧名 フィステル)が存在し排膿が認められます。
以前より根尖側への骨欠損の透過像範囲が広がっています。
根管内洗浄を行うため貼薬してあった水酸化カルシウムを除去しましたが、根管内に膿が入り込んでいる様子はなく、とてもきれいな状態でした。
根管内の原因で悪化しているのではなく、根管外での問題がこのような症状をもたらしているようです。
今までは唇側からの圧痛は無かったのですが、今回の炎症による腫脹で裏打ちがあった唇側骨に大きなダメージが加わったため、意図的再植法も厳しいと思われます。しかし患者さんからの希望で、もともと抜歯を宣告された歯で治療もダメもとで望んだため、一か八かで当初から計画していた意図的再植法をすることになりました。
患部の消炎処置を行った後、Extrusionを行います。
順調に挺出してきました。
抜歯窩には多くの炎症性組織(不良肉芽)が存在します。
炎症性組織を掻爬していくと多くのGP(矢印)が認められます。
比較的大きなGPも存在したのに、レントゲン写真に写らないこともあることがわかりました。
抜歯窩底部の骨が確認できます。
抜歯した歯を観察すると、口蓋側に根面溝が根尖より3mm手前まで存在し、口蓋側~遠心にかけ多量の歯石が確認できます。
繰り返し治療を受けた根管治療も悪く、歯の形態異常の一種である根面溝が原因でこのような大きなエンドとペリオの合併症の病巣となってしまったようです。
超音波と手用スケーラーにて根面をデブライドメントしました。
根尖孔はかなり広いですが、根管内は病巣の割に思ったほどの汚染が見られないため、やはり主原因は根面溝ではないかと思われます。
根管充填 根面溝の形態修正を行い硬化待ち
形態修正部と歯根膜の存在しない根面を更にデブライドメントしました。
再植直後(シェルテンポラリーを隣接歯と接着させ、患歯とwireで固定しました。)
当初は歯根端切除も計画していましたが、根尖部周囲に問題がなかったので温存しました。
1週間後
まだ少し赤みは残るものの腫れも治まり良好に経過しています。
1ヶ月後
歯肉の赤みも治まり、口蓋側からの膿も出ないため快適のようです。
2ヶ月後
透過像に骨梁が認められるようになりました。
3ヶ月後
透過像に骨梁が更に認められるようになりました。
10日前にシェルテンポラリー脱離したため来院されましたが、他の生活歯と変わらない動揺でした。
4ヶ月後
ビルドアップ テンポラリー装着
6ヶ月後
骨がかなり回復してきています。
7ヶ月後
10ヶ月後
オールセラミッククラウン装着
2年6ヶ月後
骨がさらに緻密化し、透過像が消失してきています。
「3年半前に応急処置で神経をとる治療(抜髄)を行い、その後根管治療を繰り返し行ったが症状が改善しないため、他歯科医院を受診。再び根管治療を繰り返しましたが改善しません。
その後も2~3軒の歯科医院で根管治療・レーザー照射治療をしても改善の兆しがなく、最終的にインプラント治療の提案を受けたそうです。インプラントは避けたかったので相談したら他県の根管治療専門医院を紹介されたそうですが、事情により受診できずに今日までそのままでした。口蓋側より膿がでるため心配です。」と当医院に来院されました。
患歯の口蓋側には何も詰め物がなく、指・舌で歯肉を押えると歯と歯肉の間から膿が頻繁に出るようです。
根の治療が完治していないのですが、途中でラミネートベニア治療を受けたそうです。
根管充填されていますが、根尖より根充剤が飛び出しています。
歯根中央から根尖部にかけて広範囲に透過像が認めらます。
治療法は根充剤の完全除去と根尖孔の確実な封鎖、嚢胞の摘出及び歯根周囲のデブライドメント・根切除などいろいろな手技が必要となる可能性があるため、再植法で対応することにしました。
再植前の前準備として根充剤を除去していったところ、根尖孔から飛び出した根充剤を苦労しましたが運よく除去することができました。
根管に薄っすら根充剤が残っているように見えますが、拡大観察しても根管内には残っていません。
排膿が認められる口蓋側には根面溝が認められ、歯周ポケットは12 ~15mmあり(それ以上は知覚があるため本来のポケット底部は探れませんでしたが、おそらく20mm近くはありそうです)、ポケット内からは根充剤の一部が除去できました。歯周ポケットに存在する一部の根充剤がレントゲン上に写っている模様です。
根面溝から根尖にかけての骨欠損が思った以上に深く、嚢胞と交通していることから、根尖病変が主だった嚢胞とは考えにくく、根面溝も深く関わっているように思えます。
病巣はエンド由来よりもペリオ由来の可能性が強いのでは…と感じました。
運よく根管内~根管孔外に飛び出た根充剤が除去できたため、再植前に貼薬して症状と透過像が変化するか少し観察することにしました。
3ヶ月後
以前のような腫れはないようですが、1~2回 膿の塊のような物が口蓋側から出てきたようです。
根充剤が残っているように見えた像はなく、ポケットから異物排除機能により排出されたかもしれません。
根充剤をきれいに除去しても透過像の大きさに変化がないことから、現在のところ根管内の問題は少ないと判断できるため、予定していた意図的再植法で対応します。
根管充填剤除去7ヶ月後
患者さんの諸事情によりその後治療の進展はありませんでしたが、突然唇側部が腫れ痛みをともなうため来院されました。
痛みのピークは一昨日だったようですが、患歯上部歯肉にサイナストラクト(旧名 フィステル)が存在し排膿が認められます。
以前より根尖側への骨欠損の透過像範囲が広がっています。
根管内洗浄を行うため貼薬してあった水酸化カルシウムを除去しましたが、根管内に膿が入り込んでいる様子はなく、とてもきれいな状態でした。
根管内の原因で悪化しているのではなく、根管外での問題がこのような症状をもたらしているようです。
今までは唇側からの圧痛は無かったのですが、今回の炎症による腫脹で裏打ちがあった唇側骨に大きなダメージが加わったため、意図的再植法も厳しいと思われます。しかし患者さんからの希望で、もともと抜歯を宣告された歯で治療もダメもとで望んだため、一か八かで当初から計画していた意図的再植法をすることになりました。
患部の消炎処置を行った後、Extrusionを行います。
順調に挺出してきました。
抜歯窩には多くの炎症性組織(不良肉芽)が存在します。
炎症性組織を掻爬していくと多くのGP(矢印)が認められます。
比較的大きなGPも存在したのに、レントゲン写真に写らないこともあることがわかりました。
抜歯窩底部の骨が確認できます。
抜歯した歯を観察すると、口蓋側に根面溝が根尖より3mm手前まで存在し、口蓋側~遠心にかけ多量の歯石が確認できます。
繰り返し治療を受けた根管治療も悪く、歯の形態異常の一種である根面溝が原因でこのような大きなエンドとペリオの合併症の病巣となってしまったようです。
超音波と手用スケーラーにて根面をデブライドメントしました。
根尖孔はかなり広いですが、根管内は病巣の割に思ったほどの汚染が見られないため、やはり主原因は根面溝ではないかと思われます。
根管充填 根面溝の形態修正を行い硬化待ち
形態修正部と歯根膜の存在しない根面を更にデブライドメントしました。
再植直後(シェルテンポラリーを隣接歯と接着させ、患歯とwireで固定しました。)
当初は歯根端切除も計画していましたが、根尖部周囲に問題がなかったので温存しました。
1週間後
まだ少し赤みは残るものの腫れも治まり良好に経過しています。
1ヶ月後
歯肉の赤みも治まり、口蓋側からの膿も出ないため快適のようです。
2ヶ月後
透過像に骨梁が認められるようになりました。
3ヶ月後
透過像に骨梁が更に認められるようになりました。
10日前にシェルテンポラリー脱離したため来院されましたが、他の生活歯と変わらない動揺でした。
4ヶ月後
ビルドアップ テンポラリー装着
6ヶ月後
骨がかなり回復してきています。
7ヶ月後
10ヶ月後
オールセラミッククラウン装着
2年6ヶ月後
骨がさらに緻密化し、透過像が消失してきています。
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